新テスト元年、コロナ禍のなかでの試験実施と、2021年度は従来とは大きく異なる入試となりました。数字をあげながら説明しましょう。まず、今年度から新たに導入された共通テストですが、全体の志願者が53万5,245人で昨年度比2万2454人減、受験者は追試験者を含めて48万4114人で、昨年度比でなんと4万2958人の減少となりました。ただし、国公立大学の医学部医学科の志願者と受験者数を見ると、ここ数年連続で減少しているものの、それぞれ2万1883人(263人減)、1万3662人(520人減)と、その前年の大幅な減少と比べると、下げ幅は少し落ち着いたように思います。対して私立大学の医学部医学科の志願者・受験者状況は、まだ受験者数については正式に発表していない大学が若干ありますが、志願者数は9万1223人で昨年度より9403人も大幅な減少となりました。今年度は獨協医科大学が受験日を1日増やし、聖マリアンナ医科大学が新たに後期試験を導入しているので、単純な昨年度との比較でいうと1万人以上の減少となります。これには少子化だけではない様々な要因が考えられますが、一つの大きな要因としては、やはりコロナ禍の影響が大きいと思います。この志願者、受験者数の大幅な減少は、様々な影響を周りに及ぼしています。受験生にとってはまさしく受験生が減った分、医学部に合格しやすくなったことは間違いなく、富士学院でも医学部医学科への実質合格率は、例年の50%を大幅に超え、約56%の合格率となり、過去最高の合格者を出すことができました。また、これまで他の予備校を含めてなかなか結果の出なかった多浪生たちの多くも、これまでの努力が実り合格を勝ち取ることができています。ただ受験生が減って合格しやすくなったとはいえ、全ての塾や予備校が合格者を増やした訳ではなく、合格者を減らした塾や予備校も多くあります。その差はどこにあるのでしょうか。
今年度の受験はまさしくコロナ禍の中での受験で、多くの受験生は様々な不安を抱えながら受験に臨みました。1回目の緊急事態宣言下では授業がストップし、その後はオンラインでの授業になるなど、多くの受験生はこれまで経験したことのない学習環境のなかで勉強をし、受験を迎えました。いくら力があっても不安を抱えながらの受験では、自分の力を全て出し切ることは難しくなります。そういう意味でも、今年度の受験は学力面だけではなく、メンタル面も合否を大きく分けることにつながったように思います。どれだけ不安を払拭して、受験に臨めたのか!?最後まで諦めずに自分の持っている力を全て出し切れたのか!?こういう強い気持ちや意識を含めたメンタル面の指導がきちんとできたのかを含め、最後まで生徒一人ひとりを全力で応援できたのかどうかなどの差が、合否を分ける結果につながったように思われます。また、この大幅な志願者・受験者減は、これまであまり見ない現象も生みました。いくつかの私立大学、医科大学で補欠合格者が全て回り、本来合格者ではない一次合格者(二次試験受験資格者)から合格者を出す事態となりました。
さらには、予備校にも大きな影響を及ぼしています。それは来年度の合格をめざし、今年新たに浪人した受験生が大幅に減少したことです。そのため大手を含めた多くの塾や予備校で、生徒数が大幅に減ることになり、深刻な問題となっています。生徒が減った分、経営が苦しくなり、存続のために人員整理や給与のカット、また講師料の引き下げを行っている塾や予備校の話もよく耳にします。しかし、そうなると当然講師やスタッフの士気が下がり、そのしわ寄せは生徒自身に全て来ることになります。特に経営基盤が弱い医学部専門予備校では、その傾向が顕著で、これまでの少子化の影響もあり、潜在的に経営難を抱えている予備校が多くあると思われます。しかしもっと怖いのは、今年大幅に減った浪人生達が受験をする来年度以降です。18歳人口は今後もずっと減り続けます。医学部の合格定員が変わらない以上、来年度の浪人生は今年以上に減ることになります。確かに浪人生が減り、18歳人口も減少していくことで、受験生にとっては合格のチャンスが更に広がってきます。しかし一方このことは、塾や予備校にとっては大きな死活問題となり、今後さらなる大きな試練が待ち構えることになります。今期は人員や給与をカットしたり、講師の報酬を下げるなどして、何とか凌げたとしても、来年度はもっと厳しい現実が待っています。おそらく事業を縮小したり、つぶれたりする所もかなり出てくるでしょう。そのうえで一番心配なのは、目先のお金を得るために、授業料などをどんどんダンピングしてくる塾や予備校が増えることです。そういう塾や予備校が増えると、行き着く先はダンピング合戦となり、それぞれが体力を失うことで経営破綻がさらに加速してくることになります。また過剰なダンピングは、経営の質を落とし、授業の質が落ちるだけではなく、その他の弊害を呼び、そのしわ寄せは全て生徒にくることになります。いくらダンピングにより授業料などが安くなったとしても、途中で経営が破綻してしまえば、一番困るのは生徒自身であり、またさらに授業料等も返ってこないという二重苦、三重苦にもなってしまうのです。
受験生が減っているとはいえ、まだまだ難関である医学部合格を勝ち取るためには、医学部入試情報を含め塾や予備校の存在は必要不可欠です。だからこそ、どこの塾や予備校を選ぶのかはまさしく合否を分ける大きなターニングポイントとなり、その選択がその後の人生を決めるといっても過言ではありません。「経営基盤が整っていることを含め、安心して勉強ができる環境なのか」「合格実績にうそや偽りがないのか」「医学部入試情報を含め、医学部受験の学習環境があるのか」「メンタル面を含め、様々なサポート環境があるのか」「医師になる自覚や覚悟を育める環境があるのか」など、生徒ご自身や保護者の方の厳しい目で、自身が学ぶ塾や予備校を選択していくことが必要です。説明会や入塾面接の際には、塾や予備校側が出してくるデータや話をそのまま鵜呑みにせず、納得するまで質問し、その塾や予備校の考え方や本質をしっかりと見極めて下さい。またその塾や予備校の合格体験記にもぜひ目を通してほしいと思います。合格体験記や保護者の声を読めば、その塾や予備校の本質や考え方がよくわかるはずです。医学部受験における高大接続の意味は、医学部に入るまでに医師になる強い自覚や覚悟をきちんと育んでいくことだと考えます。この事は大学関係者もよく言われることです。なぜならば、その自覚と覚悟がないとせっかく医学部に入学しても、留年したり、放校や除籍につながるからです。大学では臨床実習の時間が増え、カリキュラムが過密になっている中で、そういった意識付けを行う時間はそうありません。そういった役割も、実は塾や予備校にはあるのです。医学部合格はゴールではなく医師になるためのスタートです。そのスタートをどう切るのか、そして医学部6年間をどう過ごすのかで、医師免許取得後のマッチング先が決まり、ある意味その初期臨床研修先によって医師としての将来も決まってくるのです。最後にこれまでずっと話をしてきたように、受験生が毎年減っている現状は、受験生にとってはまたとない合格のチャンスです。特にまだコロナ禍の影響が残る来年度入試は、今年の入試同様学力だけの勝負にはならないので、ぜひこのチャンスを逃さずに掴んで下さい。医学部入試は他学部とは違い、医師になるための入試です。そのことを常に念頭に置き、これからの勉強をしっかりと意識を持って頑張ってほしいと思います。